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​私はこの作品が配信されている限り、何度も観劇するだろう。

窪田進二(元啓明中学校演劇部顧問 札幌市中文連演劇専門委員会副理事)

異邦人の庭を観た。
その緊迫感はPCの画面越しにも充分に伝わるもので、TGR大賞受賞も素直に頷けるものだ。

2人きりのこの芝居、冒頭からしばらくはなかなかな死刑囚の女の人物像が見えてこない。
それは演出や俳優のせいではなく、緻密な演出と飛世早哉香という女優のなせる技で、この人物の目を通して作品のもつ重要な部分を伝える、いや、観ている者が共に感じるために必要な手法だ。

通常であれば登場人物に共感できなければ芝居に集中できない私をストーリーにのめり込ませたのは、劇作家の男を演じた明逸人の絶妙な芝居である。
あえて誤解を覚悟の上で言えば、明は前半を完全に脇役に徹していた。
それが次第に明の演じる男にフォーカスが合い、いつしか自然と二人に、さらには二人を中心とする周りの人物たちとも気持ちがリンクしていく。
その人物たちは登場していないのに・・・

際立った演出や突飛な芝居ではなく、役者の心の奥底から出てくる仕草に琴線が触れる喜びを感じられる。

この作品は死刑制度や命の重さや、その他の様々なことをテーマとしているのかもしれないが、私自身は「今、目の前にいる人といかに真摯に対応することが大切であるか」を感じた作品だった。

私はこの作品が配信されている限り、何度も観劇するだろう。
そして、その度に新しいものに気付ける気がする。

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